ここ最近の読書歴
最近読んだ本の中で、特に印象的だったものについてまとめたい。
大体、8月頃から読んだものが中心である。
作家別にまとめておこうと思う。
遠藤周作
- 海と毒薬
- 沈黙
- 留学
最近、一番ぐっとくる作家が遠藤周作。彼の描く主人公たちのある種の弱さや後ろめたさが胸に来る。
第二次大戦の中で米軍捕虜に対して行われた人体実験に着想を得て書かれた「海と毒薬」(これは再読)の主人公は、世界や自分の属する社会の流れに抗する力も意気もなく、流されて実験の場に同席することになるも、その倫理的な壁を超える気合もなく、ただ部屋の隅で呆然とする。その意気地ない振る舞いに自分を重ねてしまう。
「沈黙」は江戸初期、鎖国下の日本に禁教とされたキリスト教を布教しようとした西欧人の話。純粋な熱意を持って長い船旅を経て日本に潜り込むも、日本におけるキリスト教の現状に打ちのめされ、最後には大きな運命の流れに逆らうことを放棄する。この小説は1971年と2016年に映画化されている。
「留学」は繋がりのない三本の小説から構成される。それぞれ、全く別の小説ではあるが、現代よりもハードルの高かった留学という出来事を通じて、主人公たちの人生に対する後ろめたさや、取り繕った表面とは裏腹の意思の弱さや自尊心の低さが露呈していくという共通のテーマをもっている。つい先日初めて読んだのだが、主人公の心の動きにとても近いものを感じるところもあり、現時点では遠藤周作作品の中で一番印象的だった。
内田百閒
- ノラや
- 百閒随筆1
- 御馳走帖(現在、読中)
芥川龍之介と同じく夏目漱石門下の作家。上に挙げた3作品はどれも随筆集で、御馳走帖以外は数年前に初めて手を取って以来の再読。
「ノラや」は百閒先生とその家に棲み着いた猫(初代・2代目)との生活に関する随筆。「猫好きではない」と言い張りながら、行方をくらましてしまった猫の行方を気にして食事も喉を通らない百間先生の姿がすごく可愛らしい。とかくこの方の随筆は、ご本人の頑固さやひねくれが溢れていて、その強い人間味に惹かれるのだけど、そんな百閒先生が言葉と裏腹に猫が可愛くて仕方がないことが伝わっている文がとてもいじらしい。
「百閒随筆1」は講談社文芸文庫から出ている随筆のオムニバス。作品の一貫性は無いが、内田百閒という作家がどういう視点で世界を見ているかがよくわかり興味深い。この本を手にとったのは、村上春樹「1Q84」の中で、東京日記という随筆の一部が引用されていたからなのだが、この東京日記という随筆は東京での生活をある種のファンタジーを交えて描く不思議な作品。上述の通り、彼の人間味の溢れる作品群は、その細かい言葉遣いや漢字の選び方一つ一つが興味深く、読書の楽しみを感じさせてくれる。
内田百閒の小説は仕事の昼休みに読むことにしている。彼の独特な文体に深く潜ることで仕事で熱くなっている頭をクールダウンさせるのには良い。今読んでいる「御馳走帖」は食べ物絡みの話が多いのも丁度良い。
芥川龍之介
- 芥川龍之介短篇集
私が手にとったこの短編集は、新潮社から2007年に発売されたもの。もともと、ペンギン・クラシックスの1タイトルとして発売された英訳本と同じ短編を改めて日本語読者向けに発売したもの。ペンギン、といえば英語学習で歴史的な名作を読むときに色々探した記憶がある。17作品がその舞台の歴史順に並べられ、最後は芥川龍之介本人を題材にした小説群。羅生門や鼻など有名作品まで網羅しているから、あまりちゃんと読んでこなかった人間としても網羅的に読めてよかった。個人的には本人の人生に対する恐れや葛藤を描いた「大導寺信輔の半生」「歯車」がとても印象的だった。
内田百閒も芥川龍之介も、夏目漱石の門下。こんなに癖があり世渡りの下手そうな人間たちが集う夏目漱石って、実際にはどんな人間だったのだろうかととても興味深い。「こころ」は高校時代の授業で読んだが、それ以来全然読んでいない。これからちゃんと読みたいと思っている。
フランツ・カフカ
- 変身・断食芸人
- 城
「変身」は再読。主人公グレゴールを襲う不条理。ある朝目覚めた主人公は、何の前兆もなく毒虫になっていた。というところからの展開と結末があまりに不幸だなと思う。
「城」もずっと前に買っていたのだけど、読み切ったかどうかは記憶が怪しかったのを改めて読み直し。これはカフカの絶筆となり完結しなかったらしい。主人公は、仕事をしにある街を訪れ、城ととの繋がりを求めるが、どれだけ探っても城は近づいてこない。「不条理小説」という意味ではこの終わり方でも不自然ではないと思ったし、相当な長さであるのだけど、カフカの頭にはどういう結末があったのだろう。