歌詞で聴きたい音楽(日本語詞編)
個人的に、「俺、ボーカルも楽器だと思ってるから、歌詞ってあんまりちゃんと聴かないんだよね」という意見を聞くと、なんとなくかっこいいなあと思う。自分自身を振り返ると、邦楽はがっつり歌詞も聴くタイプだ(もちろん音楽全体も楽しむのだが、歌詞がいい曲にはすごく強く惹かれる)。だからといって歌詞さえよければなんでもいいわけではなく、やっぱり曲がちゃんと好みであってその上歌詞に惹かれるものを好む。だから、歌詞優先というわけでもないか。
ともかく、日本語詞と英語詞で記事をわけてお気に入りを紹介してみようと思う。
日本語詞編で一つ目に紹介したいのは、スピッツ「若葉」。個人的にはスピッツの数ある曲でも、一番の名曲だと思っている。
そもそも、曲が最高である。アコギとマンドリンの穏やかな最初のAメロ。そこに、エレキギターとベースのロングトーンが乗り、更にドラムが入り完成度の高いバンドサウンドとなる。Led Zeppelinの「Stairway to Heaven(天国への階段)」と構成は同じかもしれない(「若葉」はもっと明るくて穏やかだが)。
歌詞で好きなのは2番のBメロだ。
暖めるための 火を絶やさないように
大事な物まで 燃やすとこだった
スピッツ「若葉」
高校時代にこの曲が発売されたとき、歌詞のこの部分で泣きそうになった。今も胸に深く突き刺さる。自分の人生は、今目の前の火を絶やさないために大事な物もそうでもないものも、見境なく燃やし続けてきたように思う。本当は自分にとって、手放してはならないはずだったものも、数多くその火に投げ込んできた。
ようやく最近、そうでは生き残れないことがわかってきた。これからは、本当に大切なものはちゃんと自分の中に残していこうと思う。
それにしても、草野マサムネはやはり弱い心を歌うのがうまい。というか、今日の記事で私が触れるシンガーたちは、おそらく全員が弱さを歌うのがうまい人たちになると思う。
せっかくなので、Led ZeppelinのStairway To Heabenも貼っておく。歌詞もなんとなくいいと思うし(残念ながら深くは理解していない)、何より曲のドラマチックさがロック史に残る名曲。
そして次にあげたいのが、毛皮のマリーズ「YOUNG LOOSER」。
ウェン・ヒー・ワズ・ヤング・ソーマッチ そして所謂ヒップな
彼の自慢は何が起ころうと決して 崩れぬヘア・スタイル
エブリデイ 鏡の前に座ること 約3時間半全時代的なヒズ・ダディ・セイ”ライク・ア・ドイツ軍のヘルメット”
「刻々と崩れてくヘア・スタイルこそ 憎むべき対象であろう」
ヒー・シンク・ソー ”時系列への反抗だ”と
それはまるで 消えないでいようとする 花火のようでした
毛皮のマリーズ「YOUNG LOOSER」
冒頭の「ウェン・ヒー・ワズ・ヤング・ソーマッチ」から「それはまるで 消えないでいようとする 花火のようでした」までの文章の流れが、本当にきれいだと思う。
ヒッピーとか不良とか、たぶんそんな感じで多勢になじめない若者が、必死に頭を作っているその様が、どこか滑稽でどこか寂しくて、そんな情景をきれいに描いている。
本当に、音楽を聴いていてこんなにきれいで印象的な文章に出会えるんだと感動した一曲。
文学的といえば、歌詞の物語性に惹きこまれて情景を想像して涙してしまったのは、筋肉少女帯「再殺部隊」だと思う。
まあ、この曲は割と有名なのかな。とにかく、世界観に惹きこまれてしまうのが筋肉少女帯。アルバム「レティクル座妄想」は歌詞の文学性を無視しては評価できない、一貫した世界観に基づいたすごく印象的なアルバム。
アルバム最後の「飼い犬が手を噛むので」のなかでセリフとして登場する「飼い犬が手を噛むので 私、ここで帰ります」という言葉を、いつか飲み会からとんずらするために使ってやりたいというのが私の夢の一つだったりする。下世話な酔っ払いの会話に飽き飽きしたところで、さっそうとこのセリフを残して帰ってみたい。割と本気で。まあ、できないんですけど。
筋肉少女帯は振り返り始めると歌詞がいい曲ばかりだなあ。「サボテンとバントライン」とか「釈迦」とか「イワンのバカ」とか、全部すごくおすすめ。
そして、以前の記事にも掲載した、踊ってばかりの国「island song」も再掲。このバンド、というか下津光史というその人も、やっぱり歌詞の深さ、人の弱さの描き方がすごくよい。
またしても 走り出した
悪魔の顔に ゲロを吐いて
好きな場所 泣ける唄
君のカンザシ 陽に揺れる
踊ってばかりの国「island song」
この部分の歌詞だけでも、前半のバイオレンスな歌詞と後半のイノセントな歌詞の対比によって、すごくサイケデリックな空気が醸し出されていてすばらしいと思う。
最後に、特に日本語ロックの歌詞を並べ立てるなら、このバンドは忘れてはいけない。
それがはっぴいえんど。誰もがおそらく名前を聞いたことであるであろう細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂の4名が参加していた、おそらく初めて本格的な日本語詞でロックした伝説のバンド。1969年から数年間活動していた。
その中でも名曲「風をあつめて」。
街のはずれの
背のびした路次を 散歩してたら
汚点だらけの 靄ごしに
起き抜けの露面電車が
海を渡るのが 見えたんです
それで ぼくも
風をあつめて 風をあつめて 風をあつめて
蒼空を翔けたいんです
蒼空を
はっぴいえんど「風をあつめて」
正直、テレビで60年代の邦楽を聴いてもどれもどこか古臭いと思うところが、この曲のこの歌詞は現代に聴いても、いまだに古びることなくきれいな歌詞だと思える。本当にすごい曲。
きっとはっぴいえんどのいない世界では、スピッツもドレスコーズも踊ってばかりの国も、どこか歌詞の雰囲気が違ったんじゃないかと、そんなことを思う。
歌詞が好きな曲は、掘り返せばまだまだたくさんありそうなのだけど、今回の視点で紹介したいのはこんなものだろうか。斉藤和義とかウルフルズとかサンボマスターとかもいいよなあと思うので、またそのうち掘り直してみようかと思う。
それでは、英語詞編へ続きます。